然 居


都心から離れゆっくりとした時間の中で暮らすための住宅である。敷地は赤松が群生し美しい谷川が流れる自然豊かな山林で、これらと建築を一体化し、建築に守られながら自然を楽しめる空間をつくりたいと考えた。自然の風景と建築が補完しながら感じられる美しさ、この大自然の中にはじめから存在していたような無為自然の建築を目指した。

赤松林の居
建物は離れ、母屋、工房の3棟からなる。「離れ」は敷地に剃って流れる谷川を俯瞰できるように斜面に対して張り出した浮遊感ある外居間とゲストルーム、浴室からなる。自然の空気を最大限感じられる、接客の役割を担う夏を旨とする場である。対して「母屋」は大自然の環境の中でシェルターとしての役割を担う。安心して籠ることができる閑居としての静寂の内居間と寝室からなる。断熱計画により制限した開口で山林の風景を切り取った窓、外の生活を引き込む土間、全館空調による住環境など年間を通じて利用できる家族のための場となる。
二つの棟は丁寧に土地を探り谷川に向かう傾斜の地形に合わせて配置した。それぞれ大きな屋根をかけ大自然の中に守られ居する場としている。移りゆく自然の流れに寄り添い、建物も時間の経過による変化を美しく捉え静寂を受け入れる場となるように、素材は土に帰る材料を主体的に選定し、生活の余白をつくる枯淡で素朴な美しさを求めた。

間と余白
広大な敷地の中、山林の自然を感じながら建物へと導く路地を設けた。溶岩の石積み、スレートスラブの飛石、茶室のような工房、湧水を利用した流れ、石橋、建物を遠くに感じながら赤松林を抜け渓谷を一望する離れの浮床。シーンを繋ぎ、立ち止まり移動しながら自然の感じ一体となる感覚を味わう。離れと母屋の移動、自然を切り取る「窓」と漆喰の壁、有るもの同士の境界線を曖昧にしながら、完璧すぎることのない間と余白をつくることを意識した。シンプルさを極めることとは異なり、無そのものの豊穣さに意識を傾けた間と余白。その余白を埋めたり、活かしたりすることも、ここでの生活の楽しみの一つになるであろう。


然 居

建築  :奥野公章建築設計室 担当 / 奥野公章、小柳綾
構造  :我伊野構造設計室  担当 / 我伊野威之
造園  :田中造園
施工  :丸正渡邊工務所

主要用途:専用住宅
敷地面積:2,952.58㎡
建築面積:   211.18㎡
延床面積:   169.63㎡
規模  :木造 平屋建て
撮影  :中山保寛写真事務所 中山保寛
竣工  :2025年


✳︎掲載_「GA HOUSES」201