この建物は、山梨県に本社を置くアパレルブランドの「evam eva」が、ブランドコンセプトである「日々のくらしを心地よく過ごす」を体現できる場をつくるプロジェクトである。甲府盆地の山間にある旧とよとみ村の1000坪の古屋敷跡にライフスタイルを提案する衣・食・住をテーマとした3つの建物を計画している。計画地となった古屋敷は、初めて訪れたときは荒れ果てた状態で、長い間放置され森のように自由に大きく育った屋敷林と、長屋門、傾いた蔵、西門が残っていた。
この場所に新しく建築するにあたり、長い時間を掛け豊かに育った屋敷林と建物を共存させることで、ブランドの感性を体現する、この場所で流れる時間と生活を感じられる建築ができないかと考えた。敷地内の屋敷林を調査し(樹木の確定と、位置・幹径の測量、高さと樹幹の広がりの実測)屋敷林の木々の樹冠の下に建築の軒を差し込み、この場所の自然(環境)と建物が交互に現れる状態をつくっている。葉が広がる木の下は平屋にして低い軒を差し込み、高く伸びる木の下には2階をつくり、時間をかけ育ってきた木々と建築を寄り添わせた。また、それぞれの建物の平面形は屋敷林の木々の配置や、地面に埋まっていた基礎石の痕跡を頼りに決定した。敷地内に残っていた動線の痕跡を頼りに、長屋門から屋敷林の深さを感じてもらい、竹林に癒され、甲府盆地を形成する山並みの景色へと展開する導線を再構築し、それに沿うように建物の配置を行っている。導線沿いのファサードは壁面を多く残し、木々の影が映り込むキャンパスになっている。時間とともに、刻一刻と変わっていく景色の変化を感じることで、庭の木々と建物が一体となる時間と、環境を感じてもらえるよう考えた。
この地に何十年と時間が経過しても残っていた「倉」のように、機能がかわっても存在していけるような建築にしようと考えた。プログラムを建築化するのではなく、この場の環境から建築をアピアランスすることで、形態としてのシンボルではなく、日々の暮らし(時間)に寄り添う空間としてのシンボルをつくっていきたい。
evam eva yamanashi
建築 :奥野公章建築設計室 担当 / 奥野公章、小柳綾
構造 :我伊野構造設計室 担当 / 我伊野威之
設備 :長谷川設備計画 担当 / 長谷川博
照明計画:スパンコール 担当 / 村角千亜希、二ノ倉絵里
什器 :jipenquo 担当 / 栗又崇信、栗又貴美
外構 :空庭カラニワ 担当 / 彌永秀一
施工 :丸正渡邊工務所 担当 / 新居薫
所在地 :山梨県中央市関原885
主要用途:物販・飲食・ギャラリー
敷地面積:3,307.00㎡
建築面積:物販棟_88.38㎡ / 飲食棟_184.41 ㎡ / サロン棟_84.98 ㎡
延床面積:物販棟_71.30㎡ / 飲食棟_192.85 ㎡ / サロン棟_119.20 ㎡
規模 :物販棟_木造平屋 / 飲食棟_木造2階 / サロン棟_木造2階
撮影 :小川重雄写真事務所 小川重雄
撮影 :新建築写真部
竣工 :2017年
✳︎受賞_「平成29年度山梨県建築文化賞」建築文化奨励賞
✳︎掲載_「日本建築学会作品選集2019」
✳︎掲載_「GREEN is」vol.2
✳︎掲載_「新建築」2018年5月号
✳︎掲載_「住む。」季刊夏 62 Summer 2017