桜株の家

スチールハウスは、木造2×4の枠材をスチール(亜鉛メッキした軽量形鋼)に置き換えた薄板軽量形鋼造の住宅である。耐震,耐火,耐久性など優れた特徴があり環境にも配慮した構法ではある。平成13年にオープン工法となったものの、ノウハウを持つ工務店と一部のハウスメーカーやアパートディベロッパーなどが認定形式にて実用しているのが現状で、規格住宅としてのイメージが強く、自由設計が可能な工法であることはあまり知られていない。

「桜株の家」は、耐火性、防虫性、耐震性を評価し、軽量鉄骨造を要望した施主のための平屋住宅である。

建物は敷地に沿って北側に配置した細長いボリュームに、玄関とアトリエをフックさせ庭を分散配置したコートハウスの構成である。終の住いとなる建物ゆえに、施主からは将来を考慮し平屋で段差の少ないデザインが要望された。アプローチのスロープ、段差のない玄関、引戸などの要素で対応している他、施主のライフスタイルから各部屋の関係性を整理し、無駄な導線をなくす事で、将来的にもコンパクトに生活が可能な平面計画としている。

このボリュームに南勾配の大きな屋根をかけ、広い軒下空間のある空間をつくった。軒の出は軽量鉄骨のBM材(45×90閉鎖型)にて持ち出せる最大寸法で決定し、軽量鉄骨ならではのシャープな軒先を実現した。南側の軒先をできるだけ低くする事で中庭越しに接する隣地への視線のコントロールを行いつつ、天井高を変化させ、断面的な空間の変化をつくっている。また、軽量鉄骨をひとつの素材として扱い、構造体を活かしながら軽量鉄骨による表現にも取り組んだ。リビングでは開口部を構成する柱、寝室やアトリエでは屋根の構成を現しに、和室では意匠として並べた軽量鉄骨を天井と床の間に使っている。現しの材には開放型断面のC型(LCN型)断面でなく、閉鎖型断面のBM材を採用し現場施工で使うビスが現れないように配慮している。また外貼断熱工法により断熱等級4を確保しており、東西に長い敷地条件を最大限に生かすために、可能な限りパッシブエネルギーを利用できる計画とした。

今回の計画では構造材として隠蔽される軽量鉄骨をひとつの素材として扱い内装材として使うなど、スチールハウスは建築家が扱いにくいというイメージを払拭し得るだけの可能性があるという事を見いだせたと考えている。スチールハウスの高品質を求める一般のニーズは高い。建築家も実用しやすい工法とすることができれば、高品質を求める一般のニーズにも答えることができ、かつ建築家住宅の間口を広げる可能性があると考えている。

 
担当    奥野公章、馬場伊都加 、小柳綾
構造    株式会社ガイアフィールド
工事    株式会社ガイアフィールド
用途    戸建住宅
所在地   神奈川県横浜市
規模    薄板軽量形鋼造
敷地面積  238㎡
建築面積  111㎡
延床面積  96㎡
撮影    牛尾幹太
竣工    2013年